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第56話 新しい仲間

last update Last Updated: 2025-04-29 17:27:07

 断ろうと思ったが、その子供と目が合ってしまった。

 年齢にそぐわない全てを諦めきったような目。ろくに食事をもらっていないと分かる、ガリガリの体。

 髪の色は金髪だと思うんだが、薄汚れてぱさぱさなのでよく分からない有り様だった。

 今日買った三人の奴隷は、拠点で生産しながら店番をしてもらう予定だ。

 ダンジョンに連れて行くつもりはないので、危険はない。

 それなら――

「分かった。その子も買うよ」

「毎度あり!」

 奴隷商人のホクホクした顔がムカつくが、俺は黙って代金を支払った。

 四人合わせて金貨六枚なり。

 全財産の金貨二十二枚から出して、残りは十六枚。まだ大丈夫。

 魔法契約で俺を主人に設定する。

 農業スキル持ちのササナ人はイザク。

 錬金術スキルの女性はレナ。

 宝石加工のじいさんはバド。

 少年はエミルという名前だった。

「みんな、これからよろしくな」

 声をかけても反応が鈍い。

 エリーゼがとりなすように言った。

「皆さん、ご主人様は優しい方です。どうか安心して仕事に励んでくださいね」

 同じ奴隷のエリーゼの言葉は、少しは響いたようだ。

 彼らはもそもそと挨拶をしてくれた。

「反抗的な態度を取ったら、容赦なく鞭打ちをおすすめします。鞭も売っていますよ。銀貨二枚」

 奴隷商人がそんなことを言っているが、無視だ無視。

 俺は奴隷たちを引き連れて、市場を出た。

 夜になるまでまだ間があったので、服屋に行って奴隷たちの服を買った。

 奴隷制は嫌いだが、必要以上に甘やかすつもりはない。

 これからしっかり働いてもらわないとな。

 でも、不潔でボロボロの服は良くないだろ。

 一年前までボロばっかり着ていた俺が言うんだ、間違いない。

 次に宿屋の部屋を取った。

 そこで桶と湯を借りて、それぞれ体を洗わせた。不潔は病気の元だからな。

 さっぱりした奴隷たちに新しい服を着せる。

 これ
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     この遺品――冒険者の日記の重要な点は、店で売っていたりダンジョンに落ちているポーションよりも高品質なものを作れると書いてあるところだ。 質の良いポーションであれば、レベルの高い魔物に通用する可能性がある。 混乱やマヒのポーションは、うまく決まれば相手を無力化できる。 ダンジョンで無限に出てくる魔物相手に、いちいち正面から戦うのは無理というもの。 だからぜひとも、無力化できる手段がほしかった。 一時的に無力化できれば、あとはボコるも逃げるも自由だからな。 錬金術はスキルである。 王都の冒険者ギルドで習えたはずだ。 その他にも生産系と思えるスキルは、あちこちの町にあった。 今までは余裕がなくてスルーしていたが、そろそろ取り組んでみよう。「ご主人様、考えは決まりましたか?」 部屋で待機していたエリーゼが言った。 ふと思いついて、俺は言ってみた。「エリーゼは裁縫スキルを持っていたよな。あれ、服とか作れるのか?」「どうでしょう……。わたしのスキルは低すぎて、繕いものをするくらいしかできません。でも、スキルを鍛えればできるようになるかもしれませんね」「なるほど」 スキルを最初から持っているのは強みだ。鍛えてみる価値はあるだろう。 さすがの俺も、全ての生産スキルを一人で極めるのは大変すぎる。手分けするのはいいアイディアだ。「ダンジョン攻略、ちょっと行き詰まってきだだろ。だからここらで方向転換しようと思ってな」 俺はエリーゼとクマ吾郎に考えを話して聞かせた。 二人ともうなずいている。「幸い、スキル習得に必要なメダルはたくさんある。これから各地を回って、めぼしいスキルを覚えてこよう」「はい!」「ガウッ」 そうして俺たちは春の季節を移動と町めぐりに費やした。 各町で見つけた生産系スキルは以下の通り。 鍛冶。ハンマーを振るって金属を加工し、武器や防具を作る。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第50話 次の一手

     パルティア王都から無事に帰ってきて以来、最近の俺は方向性に悩んでいる。 今日も盗賊ギルドの一室で、一人うんうん唸っていた。 レベルが上ってスキルやステータスも上昇し、中堅クラスのダンジョンを攻略できるようになった。 戦闘スタイルは以前と同じ。 クマ吾郎を前衛に、俺が剣、魔法とポーションでサポート。 最近はエリーゼが加わったが、彼女はあくまで補助要員である。 戦力としてカウントするには心もとない。 そのため、基本戦法は変わらなかった。 今の俺は中級冒険者の中でも、腕利きの実力といえるだろう。 それはいいんだ。 けれどもどうにも先行きが不安になっている。 というのも、ダンジョンの難易度が上がるに従って、混乱やマヒといったデバフ系ポーションの効きが悪くなっているのだ。 特にボスには牽制程度にしかならない。 このままの戦い方では、近いうちに行き詰まるのが目に見えている。 また、税金の滞納で犯罪者になった件。 それにヴァリスに頼まれて確認しに行った謎の洞窟の件。 これらのできごとは、国家権力に対して個人の無力さを思い知らされた。 少しくらい腕前が上がったところで、権力の前には意味がないのだ。 さらに難易度の高いダンジョンを効率よく攻略する方法。 権力を前にしても簡単に負けないだけの力。 もっと強くなりたい。 もっともっとお金を稼いで、クマ吾郎やエリーゼにいい暮らしをさせてやりたい。 この世界の理不尽から守ってやりたい。 難題ではあるが、全てはつながっているようにも思える。 個人の冒険者として誰にも負けないほどの腕を。 そして、お金の力を背景とした権力を。 つまり、目標が高くなっただけで今までと変わりはないのだ。 目標自体は変わらないが、そのための手段は変える時期である。 特にお金だ。 ただ暮らすだけであれば十分な収入があるが、それ以上を望むとなると…&h

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第49話 北の洞窟

     俺はさらに観察を続けた。 壁は石だと思ったが、よく見ればどこか有機的な印象も受ける。 貝殻とか亀の甲羅とか、あるいは象牙のような。硬質だけれど生き物の痕跡を感じる、あの感覚だ。 ふと、壁の上部と左右にくぼみがあるのを見つける。 上部のくぼみは剣の形。 左のくぼみは丸い形。 右のくぼみは丸に尻尾が生えたような……あれは勾玉だろうか。 手を伸ばしてくぼみを触ってみる。やはり弱い魔力が感じられる。 だが、それ以上は何もない。 くぼみ以外の部分も指でなぞってみたが、何事も起こらなかった。「これは、『何もなかった』と言うしかないかなぁ」 壁を叩いてみたが、頑丈でびくともしない。 ただ、かすかに反響音がした。 もしかしたらこの壁は扉で、先は通路が続いているのかもしれない。確かめようがないけど。 それからもしばらく眺めたり触ったりしたが、何も変わりはない。 俺は諦めて帰ることにした。 時刻はもう夜だ。野営が必要になる。 俺は少し迷ったが、外に出て休むことにした。 ここの魔力は薄いが、どこか気味が悪いんだよな。落ち着いて休めない。 外に出ると真っ暗だった。月も星も分厚い雲に隠されてしまっている。 俺は久々に手近な木に登り、仮眠を取った。 いつもはクマ吾郎とエリーゼがいるから、交代で見張りをするのにな。『また来るといい、森の子よ』 眠りに落ちる直前。誰かの声が聞こえたような気がした。 翌朝、日が昇ると同時に俺は王都へと出発した。 おかげで昼になる前に到着する。 北門をくぐろうとしたところで衛兵に呼び止められて、王城へと向かった。 塔にあるヴァリスの執務室に入ると、彼が一人だけで待ち構えていた。「どうだった?」 問いかけに首を振る。「特に何も。不思議な場所だっ

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第48話 王都での一幕

     頭の仲の映像として見えたのは、地図と地形だった。見えたというか、無理に流し込まれたような感覚だった。 場所は王都から北に半日ほど進んだ先。 森の中にある洞窟、その内部。「森の洞窟が見えました。場所は王都の北」「ああ、間違いない」 俺が答えると、ヴァルトは少し複雑な顔でうなずいた。「その場所まで行って、洞窟の中を確認してきてくれ。それが仕事だ」「確認とは? 何をすればいいんですか」「文字通り見てくるだけでいい。きみの森の民としての目で見て、異常がなければそれでよし。もしも何か気付いた点があれば、教えてくれ」「はあ」 なんともふわふわした話である。ヴァリスらしくもない。「この件は他言無用だ。もしも話が漏れた際は、覚悟するように」「は、はひ」 ヴァルトに凄まれた。すごい威圧感なんですけど。怖。「きみが戻ってくるまで、奴隷と熊は預かろう。すぐにでも発つように」 人質というわけか? そこまでしなくても裏切るつもりはないがな。 部屋を出る。 扉の両側に立っていた騎士に睨まれた。 エリーゼとクマ吾郎の姿は見えない。 ヴァリスのことだから、手荒な真似はしていないと思うが……。 不可解な思いを抱えながら、俺は北に向けて出発した。 クマ吾郎もエリーゼもいない。 たった一人で野外を歩くのは久しぶりである。 寂しいような気持ちと、最初は一人だったという懐かしい気持ちが入り混じった。 時間はもう午後だったが、俺は一路北に向かって歩みを進めた。 夕方、日没の少し前に目的の洞窟を発見する。 森の奥深く、崩れかけた土の斜面に狭い入り口が開いている。 これは、事前に教えてもらわないと見落としてしまうだろうな。 背を屈めて入り口をくぐった。

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